Mag-log in次の日。雅のママからもらったミューの履歴書に書かれた住所に行ってみると、更地だった。名前の欄に、木村 美幸(きむら みゆき)と書いてある。美幸だから、ミユを取ってミュー。……なるほど、これも偽名そうだな。
逃げようったって、そうはいかないぞ。履歴書に貼った写真はある。この俺様がしっかり覚えてるからな。お前のその顔、忘れるものか!
俺の財力、ナメんなよ。全勢力と財産を上げて、草の根掻き分けてでも探し出してやる!!
久々に熱くなっていると、ホテルの支配人から連絡があった。立ち退きの件を急かされてしまった。
無能と思われても困るので、先にホテルの件、片付けに行くか。ちょうど近いし。リムジンに乗り込み、ホテル建設予定地の近くまで行った。
路地が多く、俺の乗ってきた車じゃ入らないから、大通りでリムジンは待機させ、途中から歩いた。
俺様に歩かせるなんて、どういう見解だ?
自慢じゃないが、車が入れないような密集地帯なんかに来たことないからな。
路地を進むとボロい施設が見えてきた。
少し大きくて古い作り。遊具もペンキがはげたりして、本当にボロい。
相当年期入ってるな。看板に【マサキ施設】と書いてある。
施設の門から中を覗いていると、俺に気づいた子供たちが駆け寄ってきた。
「こんにちはー!! お客様ですかー?」
丁寧に挨拶されたので、そうだ、と返すと、子供たちはどうぞ、と小さい手で俺の手を握って中へ案内してくれる。
なかなか手厚い歓迎だな。もうすぐお前等の住む場所が無くなるのに、可哀相な子供たちだ。
「ミュー先生! お客さんだよー!!」
耳を疑った。
俺の聞き間違いか?
「どちら様?」
振り向いた女は、昨日見せることのなかった極上の笑顔を湛えていた。
昨日は巻いてあったが、今は違う。腰の上あたりまである薄茶色の長いストレートの髪を無造作に後ろに束ねていて、大きな目には殆どアイシャドウも乗せられておらず、化粧っ気も殆ど無い。
昨日逢った時に着ていたドレスより似合っているボロいジーパンとTシャツ着て、全然化粧して無いし汚い格好なのに、昨日より綺麗な女。
まさか昨日、俺様に水をぶっかけて頬まで叩いた女に会うなんて――
ミューは俺の顔を見た途端、あからさまに嫌悪感いっぱいの表情を浮かべて睨みつけてきた。「なにか御用でしょうか?」
「お前、昨日はよくも色々やってくれたな」
一瞬たじろいだけど、ココで逢ったが百年目!
絶対跪かせてやる!!
「俺のスーツ、ビシャビシャにしてくれた礼をしに来たんだよ」
施設の立ち退き要請だ、というと、ミューは一瞬顔をしかめただけで、俺を相手にもしようとしない。「その話は、昨日も別の方にお断りしています。帰ってください」
「だから俺が来たんだ。まあ聞け」極力優しい微笑みを浮かべる事に気を使いながら、話を続けた。「今なら立退き料としてかなりの破格値を用意するってホテル側は言ってるんだ。さっさと立ち退いて、別の場所に移転すればいい。なんなら俺が豪華で新しい施設、見つけてやるよ。その方が皆喜ぶ――」
「またお金の話? いい加減にして! この世にはお金で買えない大切なものが沢山あるの。貴方もカワイソウな男性(ひと)ね。とにかく、この施設から立ち退きはしないわ! 帰って!!」
俺が――……カワイソウ?
なに言ってんだこの女。
金で買えないものなんて、この世にあるわけないだろ!
金があったらなんでもできるんだ。
金を持っている者が王様なんだよ!!
「ああっ! もうこんな時間!! 急がなきゃ! アンタと話してる暇なんて無いのっ」
時計を見たミューは急に慌てた様子で部屋を飛び出して行き、財布を引っつかんで戻ってきた。
「もう帰ってよね。迷惑だから」
「はあっ!? 俺の話――」
「帰って!!」
部屋を追い出された。
「お前が好きだからだ。キスもしたいし、お前を抱きたい。お前が欲しいだけだ」 ドストレートに言ってやった。回りくどいのは性に合わない。「わっ……私は、そんな不愉快なことしたくない。王雅に抱かれるなんて……」 美羽が伏し目がちに俯いた。――ああ、なるほど。 男女関係になるのが不愉快なのは、恐らく花井のせいだ。 ビジネスとはいえ初めてをあんなジジイに奪われたなんて、屈辱にも程がある。美羽が嫌がるのも無理はない。 美羽と花井が――ああ! 考えるだけで嫌だ!! だから俺の中では無かったことになっている。 あくまでもビジネス――施設を守るために仕方なくやったことだから、ノーカウントだ。 ビジネスに犠牲はつきものだ。 たったひとりで姑息なジジイに立ち向かい、女として一番大切なものを投げ出したんだ。本当にすごいと思う。誰にでもできることじゃない。体張って子供たちを守っているんだ。 俺も危うく花井と同じ卑劣な男になり下がるところだったが、思いとどまって良かったぜ。 心からお前のこと大切にしたいと思うから。 「美羽の考えは俺が変えてやる。つべこべ言わずに俺を好きになれ。全部受け止めて、お前の大切なものもひっくるめて、俺が守ってやるから」「アンタなんか……」美羽はまだ俺を睨んでいる。「怖い顔して睨んでるけど、俺のなにが嫌なんだ? 容姿もいいし、金もあるし、お前の欲しい土地持ちだし、子供たちにも好かれてるし、文句ないだろ。これ以上美羽に合う男はいないと思うけど」「バカじゃないの」「なっ&helli
美羽はトレイに皿、コップ、箸、肉や野菜が切れる専用のハサミ、幼児用のスプーンやフォーク、手拭き、ジュースやお茶の類を乗せたものを素早く用意して、俺に渡してきた。「あの子たちのこと、お願いね」 「いいぜ。任せとけ」 好きな女に頼りにされたら男は嬉しい。トレイを受け取ってガックン達が待つテーブルまで戻った。争奪戦に勝利してゲットした肉や野菜があるから、これを分けて食べさせよう。 「待たせたな」 人数分に分け、皿に盛った肉や野菜を小さく切って子供たちの目の前に置いた。特にガックンの前には、他の子供たちから奪い取った肉をたっぷり置いた。「こんなに食べていいんですか!?」ガックンの目が輝いた。「いいぜ。足りなくなったら、また追加すればいいんだ。たっぷり食べろ」「ありがとうございます! いただきまーす」 ガックンは肉に食らいついた。ちょびっと口元にタレを付けたまま、ガックンスマイルを見せる。「とてもおいしいです!!」「そうだな」 子供たちもスプーンやフォークを使って思い思いに食べている。うまーとかうあー、とか、奇声を発しながら。 子供たちと食べるバーベキューが、こんなにうまいとは思わなかったな。ひとりきりで食べる高級肉よりも、雑多な中で大勢で食べる肉の方が遥かにうまいって、初めて知った。 俺は今まで、つまらない世界で生きていたんだな。金があるから偉そうにするだけで良かったし、思い通りにならないことも無かった。 好きでもない女と肌を重ねても残るものは無く、常に心は満たされなかった。 でも、今は違う。 こんなに心から楽しいって思えるし、嬉しいって思えるんだ。 みんなのおかげなんだな――「お兄
「ほ、ほらっ、こっちは準備できたし、バーベキュー始めるから、アンタも来なさい」 すんでのところで美羽に振りほどかれ、食材がてんこ盛りのところまで引っ張って連れてこられた。 キスはできなかった。「もういい。食いたくねえ」 ブスっとふくれっ面を見せて、プイ、とそっぽを向いた。 俺は、お前が食いたいんだ! この状況で初夜を迎えるのは相当難しいだろうから、キスぐらいさせろって! 「王雅、みんなで食べるとおいしいから、機嫌直してよ」「お前が食わせてくれるなら、食ってやってもいいぜ」「ここはセルフサービスよ」「じゃあ、食わない」「あ、そ。じゃあ勝手になさい」 結局放置されてしまい、野菜や肉を焼き始めた。すると砂糖に群がるアリのように、子供たちはわらわらと集まってきた。火の元へ行かせられない小さい子供を引き受け、用意したテーブルに着席した。 はあ。悲しすぎる。ガッカリ祭りだ。俺様にこの苦しみを味合わせた責任は、絶対に取ってもらうから覚悟しておけよ。 小さい子供をあやしていると、ツンツンとジャケットの裾を引っ張られた。振り向くとガックンが立っている。「お兄さん、これ、食べてください!」 見ると焼けた肉や野菜を持っていた。すぐ食べれるように、焼き肉のタレのようなものがかかっている。「ガックンはもう食ったのか?」「いいえ、まだです」「じゃあ、早く食えよ」「はい。お兄さんに最初に食べてもらおうと思って、取ってきました! どうぞ」 ニッコリ笑顔で、紙皿を差し出してくれた。――うわ、やばい。めちゃ嬉しい。
先ずは宿泊施設とやらに入って、荷物を置いた。予想通りただの広いホールだ。しきりすらない。 電話も無いからチャーターは絶望的。張り切って用意した初夜グッズは全部ボツだ。着の身着のままでヤレと? 上等じゃねえか。こうなりゃもう、成り行き任せだ。 しかし、ここに全員で雑魚寝か……。頭が痛くなる。 手狭でもいいから、せめてもう一部屋あればなぁ。 準備ができるまで子供たちは遊んでおくように伝え、解散させた。 遠くへ行かないよう美羽が注意したが、話半分だった。見渡すと、子供たちはホールに残ったり、外に出て思い思いに遊んでいる。今のところは全員の姿が確認取れている。行方不明になってる子供はいないようだ。 俺は準備係をさせられた。食材を運び込み、あれこれ運搬。重いものはすべて俺様が運んだ。 皿の準備やら火おこしやら、コキ使われた。 美羽は子供たちを見張りながら食材の調理にかかっている。 全般的な運搬や力仕事は俺が担った。普段はインテリ眼鏡(恭一郎)がやっているらしいが、今はいないからぜんぶ俺のところに仕事が入ってくるんだ。 もしかして今日、便利屋代わりに呼ばれたのか? はあぁ。俺、なにやってんだろ。 心の支え――あのウキウキとしたテンションは、一体どこへ行ってしまったのか。楽しみをもぎ取られてしまった今、元気が出ない。文句の一つも口に出すのさえ、もう、なんかしんどい。 俺は、今日この日を迎えるためだけに、必死に頑張ってきたのに……。 この休みを取るのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ! 俺様の苦労を返せ――――っ!! あぁ疲れた。 とりあえず机やら椅子やらの準備も終わっ
「なっ……なんだココは――――っっ!?」 現地に到着して俺は叫んだ。「泊りって……宿泊施設(ホテル)じゃないのかっ!?」 マサキ施設を出発して1時間弱。安く借りたという観光バスにガタゴト揺られて、近所の山奥にやって来た。見晴らしの良い草原の中に、ポツンとひとつ公民館のようなものが建っていた。 因みにこの建物以外、他になにもない。大草原が広がっているだけだ。 更に付け加えるなら携帯の電波は圏外。チャーターも呼べねえ。初夜のための準備グッズなどを届けてもらおうと思っていたのに、もう入手不可。まさか県外とは迂闊だった。 想像以上の山奥だったなんて……。 金払って貸し切りにしようと思っていたけど、最初から貸し切りじゃねえか!!「おい美羽、これ……なんだよ」「えっ?」「ここに泊まるのか?」「そうだけど」「へっ……部屋は!?」 特別ルームとかあるようには見えないが、敢えて聞いてみた。「部屋? みんな一緒よ。ホールひとつしかないもの」美羽はあっさり言ってのけた。「なっ……どういうことだよっ。俺とお前の部屋は!?」「大人だけ別の部屋なんてあるわけないでしょ。みんな一緒に決まってるじゃない。おかしなこと言うのね」「そっ……そんな、お前、子供たちの横で初夜っ……俺はいいけど……お前がマズいだろ。もう少し大事にしないと……」 言っとくけど俺、アッチのテク、かなりある方だと思うんだ。経験豊富だし。 だから多
ボロボロの門扉を開けて中に入った。遊戯室あたりで用意しているだろうと思い、そちらに向かって勝手に入っていった。「よお」「あ、お兄さんだぁ!!」 いち早く俺を見つけたガックンが笑顔を見せて飛びついてきた。「来てくれたんですね!」 ガックンはいつも丁寧だ。俺様に敬語を使ってくれる。他の子供たちとは違う、上品な雰囲気がある。頭が坊ちゃん刈りだから、身も心も坊ちゃんのようだ。「お兄さ~ん!!」 俺の背中に飛びついてきたのは、サトルとリョウだ。「よしっ、まとめて来いっ」 俺は背中に貼り付いてきたふたりを担ぎ上げ、人間飛行機で振り回した。キャーキャー言って喜んでいる。ガックンはサトルやリョウよりも年上で少し背が高いから、彼のみ振り回した。 少し回っただけでなんか疲れてしまった。今、寝不足だから体力が少ない。ここ暫く殆ど寝てないからな。 俺は、今日この日のためだけに頑張ったんだ。あまり体力をムダ使いして本番を迎える前にダウンしたら、今までの努力がお釈迦になる。それだけは避けたい。 人間飛行機を素早く切り上げ、遊戯室に散らばっていた子供たちに集合をかけた。「よし、お泊り保育とやらへもうすぐ出発するから、荷物を先に運ぼうか」「はーい!!」「自分の荷物は自分で持つこと。いいな?」「はーい!!」 自分でも思う。すっかり俺もここの先生だ。 叱ったり教育するのは美羽の仕事だが、子供たちと遊んだり玩具をプレゼントするのは俺だから、子供たちから絶大な信頼を寄せられてる。俺がやってくると子供たちがみんな寄ってくるほどの人気者だ。 フッ、誰にでも俺様は人気があるから罪だな。 でも俺は一番に美